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今日はこちらのインタビュー記事から。

うつ病と格闘する“ふつうの人びと”の姿を描いたドキュメンタリー『マイク・ミルズのうつの話』

Web Magazine OPENERS - MOVIE | Tokyo Tips 2013年10月9日配信
http://openers.jp/culture/tips_movie/news_mikemills_40204.html


マイク・ミルズ監督 日本公開記念インタビュー
 
日本人の15人にひとりがかかっているといわれるうつ病。しかし2000年まで、「うつ」という言葉は精神科周辺以外ではめったに聞かれなかった。なぜこの短い期間にうつ病は爆発的に広まったのか? マイク・ミルズ監督は、製薬会社がおこなった「心の風邪をひいていませんか?」という広告キャンペーンが理由のひとつであると考え、その実態に迫るドキュメンタリーを作ろうと思い立つ。うつ病患者のありのままの日常を、ミルズ監督独特の優しい目線で捉えた本作は、うつ病の知られざる一面を明らかにするとともに、いまの日本社会が抱える問題点をも鮮やかに描き出す。

マイク・ミルズ氏はグラフィック・アーティストとしても活躍し、映画「サムサッカー」や「人生はビギナーズ」などの監督も務めています。

映画『マイク・ミルズのうつの話』公式サイト

▼マイク・ミルズによるX-girlのロゴデザイン
 
X-girl 2013 FALL COMPLETE BOOK (ブルーガイド・グラフィック)

X-girl 2013 FALL COMPLETE BOOK (ブルーガイド・グラフィック)


マイク・ミルズに学ぶ3つのなるほどポイント


マイク・ミルズ監督インタビューで、私がなるほど~と納得した点は次の3つ。

①アメリカ的お薬事情
②うつ病を患った人たちの生き方
③うつ病克服の手がかり

詳しく見ていきましょう。ちょっと長めです。

①アメリカ的お薬事情


マイク・ミルズ氏は「薬というのは、アメリカ的な考え方なんじゃないか」と言います。

健康やメンタルヘルスに対する考え、「ハッピーでいなきゃいけない」という価値観、そういう幸せに固執する脅迫観念はアメリカ特有の考え方です。ハッピーじゃないとダメだと。

確かに「ハッピーでいなきゃいけない」という価値観は、従来の日本的な考え方とは趣が違います。アメリカが赤・黄・青の原色だとしたら、日本はあずき・抹茶・藍というイメージでしょうか。トーンも発色も異なります。
日米色イメージ

また、アメリカの映画では、気持ちが高ぶったときサプリメントのような気軽さで精神薬を口に押し込むシーンをよく見かけます。一方、日本映画で精神薬を服用する描写は、心を病んでしまったことを示す重要な伏線であることが多く、アメリカのような気軽さはありません。

こういった文化・思想の違いがあるにもかかわらず、アメリカ的な考えを輸出してアメリカ人はビジネスをする。そうして文化の中にうまく溶け込んだ製薬会社のたくらみをマイク・ミルズ氏は明らかにしようとしています。これは“抗うつ剤のグローバリゼーション”という世界規模の問題だと彼は言います。

さて、ここでわかりにくい横文字が出てきました。「グローバリゼーション」。これは一体どういう意味かと言うと、
社会的あるいは経済的な関連が、旧来の国家や地域などの境界を越えて、地球規模に拡大して様々な変化を引き起こす現象
(ウィキペディアより)

わかりやすい例として、このような説明もありました。
どこの街にもマクドナルドやスターバックスができるなど、地域アイデンティティを破壊する「新手の文化的世界支配戦略」という観点からアメリカナイゼーションとも揶揄される。
(はてなキーワードより)

つまり、お金や農業・工業などの技術を世界共通のものにしようということです。

そして今度は、抗うつ薬があたらしいグローバリゼーションとして普及しつつあるとマイク・ミルズ氏は言っているのです。何でもかんでも「抗うつ剤飲んで、ハイOK!」という対応じゃダメだよね、と。


しかし、映画を撮り終ったころ、マイク・ミルズ氏は薬に対する見方が変わったと言います。

撮影をはじめた当初、ぼくは投薬と製薬業界に対して、かなり批判的な見方をしていました。でも出演者の何人かは、薬で助けられたと感じていて、彼らの意見に触れるうち、映画を撮り終わったころには、もう少し複雑な見方に変わりました。いまでも薬に対してやや反対の立場ですが、薬が必要であることもわかります。助けになるときもあるでしょう。うつ病のときに薬を取るのは恐ろしくもありますが、助けになるのならそれは素晴らしいことです。

これにはまったく同感です。抗うつ剤による薬害を訴える人々の意見を聞いていると、「私も製薬会社のカモにされた! キーッ!」と怒りや悔しさを感じることがあります。副作用に悩まされたこともありました。しかし、薬に助けられたのも事実で、完全に否定することはできません。

薬を飲めばうつ病が治ると言い切れるわけではないけれど、大きな支えとして必要なものではある。

長所と短所を知ることが大切だと痛切に感じます。

②うつ病を患った人たちの生き方


映画「マイク・ミルズのうつの話」に登場するのは、うつ病を患う5人の日本人。

+ミカ(20代・実家暮らし)
「毎日嫌いな酢を飲んで、精神を鍛えているんです」

ミカは20代で、医薬品の配達をやっている。母親と同居し、抗鬱剤と酢を飲むことを日課としている。それが彼女の自己投与治療法である。

+タケトシ(うつ歴15年)
「精神科にかかったら人生終わりだと思ってました」

タケトシは37歳で、両親の援助により同居している。絵を描き細かく日記をつけている。今まで仕事を持った経験はない。病院での鬱の集会には、まじめに参加している。

+ケン(プログラマー)
「気分をアゲるためにハイヒールを履くんです」

ケンはコンピュータプログラマである。週末はハイヒールとホットパンツで外出する。バイセクシャルであることは家族に打ち明けていない。自分の手足を縛ってもらうため、縄師のもとを定期的に訪れている。

+カヨコ(Tシャツ工場勤務)
「眠っているときが一番幸せ」

カヨコは自殺願望がある。体重を維持するように努めており、ほとんどの時間、泣いているか、ペットの世話に費やしている。

+ダイスケ(エンジニア)
「サボテンって可愛い花が咲くんですよ」

ダイスケは、毎日4種類の抗鬱剤を服用している。さらに飲酒と喫煙の量も少なくない。彼の趣味に、写真撮影やジャズ鑑賞、サボテン飼育などがある。


このイントロダクションの登場人物紹介を見て、正直「ん?!」となりました。酢? ハイヒール? 縄師? 私とは違うカモ……。ちょっと理解できないカモ……。

でも、自分と違うとか理解できないとか、そんなの当たり前のことですよね。一人として同じ人間なんていないのだから。

それに、そんなことを気にしていたら、ずっとうつ病は治らないかもしれない、生きづらさを抱えたまま暮らすことになるのかもしれない、とふと感じました。

そして、マイク・ミルズ氏の言葉を通じて、もっとたくさんの人のことを知りたいという純粋な気持ちが生まれました。

彼らは決して弱いわけではないし、怠け者でも被害者でもない。改善しようと奮闘しています。ぼくが「どうにかして力になりたい」と思うのはそこです。
今回参加してくれた人たちは、「なにかやらなきゃ」という使命感みたいなものがあった。というのも、彼らは日本の社会のなかで誤解されているという意識があるんです。この世に存在しないものとして扱われ、社会から閉め出されている。みんなそう感じているんです。

そうそう! こういうふうにうつ病や心の病を理解してくれる人が増えたら、患者の苦しみは軽くなるはずです。心の病気を理解できない気持ちもわかるけれど、「自分には理解できない病気に苦しんでいる人がいるらしい」と知ってもらえるだけでも「世間の目」は随分違ってくるのではないでしょうか。

頭から否定したり、「?」で思考停止するのではなく、「今どんな気持ち?」と相手に歩み寄れる自分でいたい。そう思いました。

③うつ病克服の手がかり


マイク・ミルズ氏の目に映る日本人の気質と、うつ病患者の未来についても語られています。

日本で働いている人たちは、とても一生懸命ですよね。それにすごく熱心。愛想よく振る舞うことや、期待通りの結果を出すこと、他人に合わせることに対しても、相当なプレッシャーがあります。どこの国でも大なり小なり、そういうことはありますが、特に日本はそれがものすごく強い。

そうした日本人特有の考え方が、うつ病につながっている可能性もありますが、ぼくは逆にうつ病を克服するための糸口にもなると思っています。この映画に出演してくれた人たちが、そもそも出演を承諾してくれたのも、自分のうつ病の状況を世間に伝えることで、社会に貢献したい、ほかの人の役に立ちたいという思いからです。

これまで、「私がうつ病になったのは、何だかんだで結局メランコリー型の性格だからでしょ?」と考えていました。(以前「メランコリー型性格」と「うつ病」の関連性は不明と言っておきながら。参考記事

でも、その「悪い」と思っていた性格が実はうつ病克服の手がかりになるのではないかというマイク・ミルズ氏の言葉に、ハッとされられました。

真面目すぎ、我慢しすぎ、頑張りすぎ……。そういう部分をもっと柔軟にしよう! そう考えるばかりで、長所として利用しようとしたことはなかったなぁ、と。

うつ病と診断されてからは、「役立たずで、周りに迷惑をかけてばかりの自分なんて死ねばいい」としか考えられなくて、さらにそんな考え方しかできない自分も大嫌いで、もうどうしたらいいかわかりませんでした。

でも、そうやって追い込まれてしまうのは、「人の役に立ちたい」という純粋な気持ちがあったから。苦しみながらも、「自分のうつ病の状況を伝えることで、ほかの人の役に立ちたい」という思いを持っていたからこそ、こうして今、自分の考えをブログにしたためているわけで。

見方を変えれば、負のエネルギーも原動力になるんですね。

最後に


正直に言うと、マイク・ミルズさんのうつ映画と聞いて、そこまで興味を持ったわけではありませんでした。他の映画作品を見たこともなかったし、「グラフィック畑で有名なあの人が映画撮ったのかー」と気になった程度。

でも、私の予想は外れました。この映画はただのオシャレ映画というわけではないようです。

どんなに正しい意見でも、現実で役に立たなければ意味がありません。「机上の空論」じゃダメ。「その人にとって、何が問題で、どうすれば解決できるか?」 それを理解するためには、まずその人の生き方を具体的に知ること。そして、その人の考え方や感情を受けとめること。

でもそれってとても難しいことで、私が言っていることも結局は机上の空論じゃないかとガッカリしたりして……。

ムズカシイデスネ。

でも、私は考え続けます。あきらめたらそこで試合終了ですよって安西先生が言っていましたので。

勝機はきっとあるはず。



<おまけ>
マイク・ミルズ監督の映画作品。