
Balancing Act / Sharon Mollerus
三回目を迎えました、認知療法シリーズでございます。
【自分でできる認知療法】
第一回 認知療法とは
第二回 問題を整理し、目標を見つける
第三回 バランスの良い考え方を身につける
第四回 目標達成のための計画を立てる
第五回 生活のリズムを回復する
第六回 人間関係を改善する
第七回 心のクセに気付き、柔軟な考え方を選ぶ
前回のレッスンでは、問題の整理・目標設定の3ステップをご説明いたしました。あなたなりの目標は見つかりましたでしょうか?
今日のワークは考えること・書き出すことが多いので、調子が良いときにちょっと頑張って取り組んでみてください。
昨日もお伝えしましたが、もう一度ワークを始める前に、認知療法のポイントを確認しておきましょう。
- 一度にいくつもの問題を解決しようとしない。
- すぐに効果を実感できなくても、何度もくり返し練習する。
- つらくなったり、疲れたときは休む。
本日のレッスン:バランスの良い考え方を身につける
バランスの良い考え方を身につけるために、次の7つのステップを設定しました。
ステップ1 気持ちが動揺したり、つらくなったりしたときの状況を書き出す
ステップ2 そのときの気分や感情を一言で表現し、評価する
ステップ3 自動思考を書き出し、チェックする
ステップ4 自動思考を裏づける事実を書き出す
ステップ5 自動思考と矛盾する事実を書き出す
ステップ6 自動思考に代わる柔軟で現実的な考えを書き出す
ステップ7 ステップ2の気分・感情を再評価する
では、順番に見ていきましょう。
ステップ1 気持ちが動揺したり、つらくなったりしたときの状況を書き出す
今回のレッスンでは、あなたの気分・感情に焦点を当てて、バランスの良い考え方を探していきます。
まず、前回のレッスン・ステップ1で書き出した悩みの中で一番つらかったこと、心が揺さぶられた状況について詳しく書き出しましょう。
今回の具体例は、前回挙げた悩みのひとつ、
- 誰も私のことをわかってくれない。
紙に線を引いて、7つの項目に分割してください。以下のシートを印刷して使っていただいてもいいですし、チラシの裏などに簡単にメモする程度でもOKです。

(印刷方法:右クリック→「名前を付けて画像を保存」→ファイルを開いて「印刷」)
「誰も私のことをわかってくれない」
このときの状況を「5W1H」を参考に、より詳しく書き出します。できれば思いつく状況をすべて記録しておきましょう。そうすることで、問題を整理しやすくなりますし、気付きも得られやすくなります。
【状況1】

ステップ2 そのときの気分や感情を一言で表現し、評価する
状況ごとに、あなたが感じた気持ちを一言で書き込みます。
[気分・感情を表す言葉(one word)の例]
憂うつ | 悲しみ | 苦しみ | つらい | 落ち込み |
不安 | 心配 | 焦り | 困惑 | 後ろめたい |
罪悪感 | 切ない | 怖い | おびえ | 恥ずかしい |
神経質 | 怒り | 興奮 | いら立ち | 侮辱された |
失望 | 不満 | ガッカリ | みじめ | 傷付いた |
うんざり | 後悔 | 無力感 | パニック | 無我夢中 |
心地良い | 楽しい | 誇り | 温かい | 喜び |
選んだ言葉のあとに、その気分を100%中、何%か評価して書き込みます。あまり難しく考えず、「これくらいかな~」と大体の感覚でOKです。

ステップ3 自動思考を書き出し、チェックする
次に、ステップ2で記入した気分を体験した瞬間の考え・イメージ(自動思考)を書き出します。

そして、今書き出した考えやイメージ(自動思考)を分析していきましょう。
自動思考はたくさんある考え方の中の一つに過ぎません。極端に偏った考え方になっていないかチェックするために、次の10項目に当てはまるものを探してみましょう。私が勝手に命名した項目もあります。あなたも自由に名前をつけてみてください。そうすることでより理解が深まります。
【うつ病特有の自動思考(認知のゆがみ)】
1.根拠のない決めつけ
根拠が少ないままに思いつきを信じ込んだり、心の読みすぎで、事実とは無関係に相手のイメージや考えを作り上げてしまいます。また、ちょっとした失敗でも、具体的な根拠もなしに、取り返しのつかない最悪の失敗をしてしまったと感じることもあります。
例)「人は自分のことを悪く言っている」「挨拶されないから嫌われている」と考えてしまう。
2.白黒思考
灰色(あいまいな状態)に耐えられず、「白か黒かはっきりしないと気がすまない」「100点満点以外はたとえ90点でも0点に等しい」という極端な考え方で割り切ろうとしてしまいます。物事を白黒・全か無・良し悪しなど、両極端にとらえる完璧主義の考え方です。
例)身体は完全に調子が良くなくてはいけない(健康 or 病気)と考えると、わずかな変化に敏感になり、「調子が良くないからうまく行動できない」「だからやらない」などと極端な考えに走ってしまう。
3.短絡的思考(心の色メガネ)
心の色メガネ(良いことは視野に入らず、悪いことだけを見てしまう屈折したフィルター)で短絡的に結論づけてしまいます。出来事や人の価値とは無関係に「自分の価値を否定するもの」と決めつけてしまうこともあります。
例)「あの人が苦手だ」と思っていると、「この前会ったときに挨拶をされなかった」という事実に目が向いて、「やっぱり嫌われている」と考えてしまう。
4.過大評価・過小評価
気になっていることや悪いことを過大評価(拡大解釈)して、できていることや良いことは過小評価してしまう考え方です。
例)「私は人付き合いが下手だ」と思っているために、うまくできなかったことばかりを思い出して、うまくコミュニケーションが取れたときのことは忘れてしまう。
5.「べき」思考
根拠や理由・制約がないのに、「~するべきだ」「~しなければならない」と自分の行動を制限したり、過去を思い出して悩んだりしてしまいます。また、できなかったときに罪悪感を持ちやすくなり、他者にこの考え方を向けると怒りや葛藤を感じます。
例)家事が十分にできない自分を見て、「主婦なら家事を完璧にするべきだ」と責めてしまう。
6.「どうせこうなる」思考
一つの出来事(失敗)から、すべてが同じようになる(失敗する)と思ってしまう考え方です。
例)会議で発言について突っ込まれ、答えられなかった。「今後もそうなるから会議には出られない」と考えてしまう。
7.「全部自分のせい」思考
何か悪いことが起きると、自分のせいで起こったのだと自分を責めたり、他者のことまで自分の責任にしてしまいます。自分の思い通りにしたいという認知でもあります。
例)「売り上げが下がったのは自分(だけ)の責任だ」「仕事の行き詰まりは私が悪い」「上司が風邪を引いたのは私がクシャミをしたからだ」などと考える。
8.感情的決めつけ
そのときの自分の感情(気分)によって、現実を判断してしまいます。
例)新しい仕事についたときに不安を感じると、「はじめてでよくわからないから不安なんだ」とは思わずに、「こんなに不安なんだから、自分にできないほど難しい仕事に違いない」と思い込んでしまう。
9.自分で実現してしまう予言
自分で否定的予測を立てて自分の行動を制限してしまい、自分の行動を制限するものだから、予測通り失敗してしまう。その結果、否定的な予測をますます信じ込み、悪循環に陥ってしまう考え方です。
例)「自分と会っても『楽しくない』『嫌われる』」と思い込んで(予測)、誘いを断ると次第に誘われなくなり、「やっぱり自分の思った通りだ」と確信してしまう。
10.レッテル貼り
自分に対して否定的レッテル(「無能力者」「落ちこぼれ」など)を貼り、それが自分のすべてであるかのように考えてしまいます。
例)「ミスをした人はダメな人間だ」というレッテルを貼ってしまう。
以上、10パターンの「認知のゆがみ」にあてはまる自動思考をチェックし、その理由を書き出していきます。「自動思考チェックシート」をご用意しましたので、よろしければお使いください。

(印刷方法:右クリック→「名前を付けて画像を保存」→ファイルを開いて「印刷」)
【状況1】

ステップ4 自動思考を裏づける事実を書き出す
自動思考を客観的に証明する事実を書き出します。自分の考えや相手の気持ちではなく、事実に注目しましょう。

ステップ5 自動思考と矛盾する事実を書き出す
自動思考と矛盾する事実を書き出します。ステップ4と同様、事実に焦点を当てて振り返りましょう。

ステップ6 自動思考に代わる柔軟で現実的な考えを書き出す
ステップ4・ステップ5をもとに、別の考えを書き出してみましょう。
柔軟で現実的な考え方を見つけることが目的ではありますが、バカバカしいと思うことや現実離れしていると思うことも、とりあえず書き出しておきましょう。

[新たな考え方を見つけるヒント]
- 他の人が同じような考え方をしていたら、あなたはどのように言ってあげますか?
- あなたの親しい人があなたの考えを知ったら、その人はどのように言うでしょうか?
- 元気な頃の自分だったら、どんなふうに考えたでしょうか?
ステップ7 ステップ2の気分・感情を再評価する
新たな考え方を書き出してみて、あなたの気分・感情がどのように変化したか見てみましょう。ステップ2で選んだ言葉を0%~100%で再評価します。

以上が、バランスの良い考え方を身につけるための7ステップです。
気分に変化は見られましたか? それとも、特に変化は感じられなかったでしょうか?
少し気持ちが軽くなったというあなた。今日見つけた新たな考え方を取り入れて、これから過ごしていきましょう。
そして、何も変わらなかったというあなた。落ち込む必要はありません。すぐには見つからなくても、あなたに合った考え方はきっとあります。また、調子が良いときに再トライしてみましょう。
参考例
「誰も私のことをわかってくれない」という悩みについて、他の状況も書き出してみました。参考にしてみてください。
【状況2】

【状況3】

最後に
今日のレッスンはここまで。お疲れ様でした。
今回はかなり盛りだくさんの内容でしたので、大変だったと思います。ここまで読んでくださったあなたは「よくがんばりました」の花丸です。何か自分にご褒美をあげてください。
さあ、あとはゆっくりお休みくださいませ。
では、また。
【次回予告】
第四回 目標達成のための計画を立てる
【関連記事】
ストレスを手玉に取る方法 実践編②認知療法
<参考文献>
大野裕(2003)『こころが晴れるノート うつと不安の認知療法自習帳』 創元社
高橋良斉(2002)『 「うつ」と上手につきあう心理学―自分でできる認知療法入門
唐渡雅行(2010)『 うつ病診療最前線―再発させない治療法
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