
シリーズ【自分でできる認知療法】
第一回 認知療法とは
第二回 問題を整理し、目標を見つける
第三回 バランスの良い考え方を身につける
第四回 目標達成のための計画を立てる
第五回 生活のリズムを回復する
第六回 人間関係を改善する
第七回 心のクセに気付き、柔軟な考え方を選ぶ
最終回となりました、自分でできる認知療法。本日は、すべての問題に応用できるワークをシリーズのまとめとしてお届けいたします。
本日のレッスン:心のクセに気付き、柔軟な考え方を選ぶ
心のクセに気付き、柔軟な考え方を知るためのステップは次の2つ。
ステップ1 考え方のクセに気付く
ステップ2 行動を通して、考え方のクセを修正する
では、さっそく参りましょう。
ステップ1 考え方のクセに気付く
その共通項こそが、あなたの考えや行動に大きく影響している「考え方のクセ」です。
[考え方のクセの例]
- 自分はダメな人間だ。
- なんでも自分でやらないといけない。
- すべての人から愛されなくてはいけない。
- 人は自分を利用するだけだ。
- 人に弱みを見せてはいけない。
- 少しでも気を抜くと大変なことになる。
(『こころが晴れるノート うつと不安の認知療法自習帳』より)
このような考え方のクセを知る方法として、矢印法というものがあります。これは、ぱっと頭に浮かんでくるイメージや考えに対して、「なぜ?」「なんのために?」「どういう意味があって?」と質問をくり返すシンプルな方法です。
それを続けていくことによって、不自然な思い込みや、意味の取り違えを検証することができます。
例1)
【状況】
今朝、Мさんは私が挨拶したのに返してくれなかった。
【自動思考】
Мさんは私を嫌っていると思う。
↓(どういうところが問題?)
親しくなると必ず、人は私を嫌う。
↓(それは自分にとってどういうこと?)
自分は人と親しい関係が結べない。
↓(それはどいういうこと?)
自分は嫌な人間だ。
例2)
【状況】
待ち合わせの時間に遅れてしまった。
【自動思考】
相手に迷惑がかかる。
↓(何が問題?)
相手に嫌われたり、うらまれたりする。
↓(それは自分にとってどういうこと?)
友だちをなくしてしまう。
↓(それで?)
ひとりになってしまい、誰からも助けてもらえない。
↓(で?)
私は助けがないと生きていけない。
例えば、こんな感じです。以下の質問も参考にしながら、あなたの考え方のクセをあぶり出してみましょう。
[質問の例]
- どういうところが問題?
- あなたにとってそれはどういうこと?
- それはどういう意味を持つの?
- 最悪のシナリオは?
- 他の人にとって、それはどういう意味?
- 世の中にとって、それはどういうこと?
ステップ2 行動を通して、考え方のクセを修正する
あなたの考え方のクセ、見えてきましたか?
では次に、新たな考え方を取り入れて、あなたの思考や感情にどんな変化が起こるか実験してみましょう。
例として、「自分はダメな人間だ」という考え方のクセについて見ていきます。
チェックポイント①それって現実的?
・・・誰にでも(どんなに優れている人にも)欠点はあるよね。完璧な人間はいないよね。
チェックポイント②その基準は何?
・・・仕事って、具体的に何ができないの? ノルマをこなせない? 営業成績不振? 遅刻ばかり? 病気だから今休んでるんでしょ?
自立していないからダメ!
・・・「自立」の定義は? 自立してない人もいるだろうし、それってそこまで悪いこと?
ネガティブ思考だからダメ!
・・・ネガティブ思考ってダメなの? なんで? ネガティブがないとポジティブは成り立たないよ。
チェックポイント③プラス面とマイナス面があるよね?
プラス面:謙虚。理想・志を持っている。
マイナス面:自分を責めることで可能性を潰している。「頑張ろう!」と思えなくなる。
チェックポイント④実際どうなるか試してみよ?
どんなことが起きる?
・・・「図書館へ行かねば!」と緊張する。
何が心配?
・・・無理して疲れてしまう。
自分の心の命令に従わないとどうなる?
・・・「やっぱり自分はダメな人間だ」と再確認することになる。
では、このような予測を立てたら実行してみましょう。
【実験結果】
実際どうなった?
(できた!)
・・・緊張はしたけれど、図書館へ向かっている間は「できない自分はダメな人間」という考えがそれほど強くはなかった。
(できなかった)
・・・実行できなかったときは落ち込んだ。予想通り「自分はダメだ」と思った。
チェックポイント⑤他の人はどうしてる?
例えば、「行動計画通りに実行できなかったけど、前向きに計画できたんだからOK!」「ダメでもともとじゃん」「誰にも迷惑かけてないし」というような、あなたの普段の考えとは違うパターンを取り入れてみましょう。
そうすることで新たな変化が生まれ、ガチガチに固まった考え方が柔らかくなってくるはずです。石のように固くなった粘土もコネコネし続けていくと柔らかくなります。このように少しずつ柔軟性が出てくれば、修正もしやすくなりますよね。
最後に
お疲れ様でした。
7日間にわたって考え方を変える方法をご紹介してきたわけですが、新たな気付きはありましたか? 実際に紙に書き出してコツコツと取り組んでいけば、きっと役に立つ気付きが得られるはずです。気力があるときに、ぜひ試してみてください。
……と、言っておきながら。
今さらこんなこと言うのも何なんですが、正直私は認知療法は好きじゃないというか、うつ状態が最悪でどうしようもないときは「あン? 私の考え方が悪いってこと? あーそー、どうせ私がすべて悪いんですよ! フン!」という感じで、素直に受け入れられなかったんですよね。ですから、「やってみよう」と思えないときは、こんな療法もあるのか~と知っておくだけで充分だと思っています。
さらに、この認知療法の記事を作成する中で、「これって今だから言えることだよね」という思いが常にありました。ある程度うつ病の症状も落ち着き、心の整理がついた今の私だから別の考え方に目を向けることができたけれど、1年前、いや半年前の私だったら、こんなふうに考えられなかったかも……。
だから、まぁ、適当にスルーしていただいてかまいません。
大切なのは、あなたの苦しみを少しでも和らげて、毎日を気分よく過ごすこと。
どれだけ考えても答えが浮かばないときは、「保留」にしておきましょう。時間を置いて寝かしておくことで、ヒントが見つかる場合もあります。
無理せず、焦らず、ありのまま。
最後までお読みいただきありがとうございました。どうぞゆっくりお休みくださいませ。
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<参考文献>
大野裕(2003)『こころが晴れるノート うつと不安の認知療法自習帳』創元社
高橋良斉(2002)『 「うつ」と上手につきあう心理学―自分でできる認知療法入門
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