「長い間、薬を飲んでいるのに症状がなかなか良くならない」

そんな悩みを抱え、悶々としているあなたへ。

『薬でうつは治るのか?』という本に、その答えに近づくヒントがありました。 

どうやら「うつ病は抗うつ薬さえ飲めば治る!」と盲信するのは危険なようです。薬だけでは治らないうつ病、回復のために自分の内面と向き合わなければならないうつ病もある……?!

>>薬が効くうつ病、薬が効かないうつ病

うつ病の原因による分類


本来「セロトニン・ノルアドレナリン仮説」は内因性うつ病を想定したものです。うつ病は原因別に大きく3つに分けらていて、内因性うつ病はその内のひとつ。

笠原嘉氏の「うつ病の診断作法」による類型は以下の通りです。

①身体因性うつ病
②内因性うつ病
③心因性うつ病(神経症性、反応性)


では、詳しく見ていきましょう。

①身体因性うつ病

身体因性うつ病は、マタニティーブルーや、脳卒中の後に発症するうつ状態など、脳や身体の器質的な病気、あるいは薬物によるものです。

②内因性うつ病

内因性うつ病は、「内部からひとりでに」起こるうつ病。先の「セロトニン・ノルアドレナリン仮説」という名にもあるように、生物学的要因が大きく作用していると考えられています。これがいわゆる「脳の病気」と言われる理由です。

③心因性うつ病

心因性うつ病は、さらに2つに分けられます。
1)反応性うつ病
反応性うつ病は、大切な人を失ったり、環境の変化によるものです。これは「反応」としての抑うつ状態と言われます。このようなケースの抑うつ状態は、「時間がかかる場合もあるにせよ、原則として回復していくはず」と片田氏は言います。
2)神経症性うつ病・抑うつ神経症
一方、神経症性うつ病と抑うつ神経症。この二つは、ほとんど同じと捉えて良いようです。

これらの神経症は、片田氏によると「心の中の葛藤が、不安、恐怖、時には動悸などの症状の形で出現すること」。

さらに、神経症性のうつは、
薬物治療はあくまで補助であり、心理的なケアや心理的援助( カウンセリングや心理療法など )が不可欠なもの
といった見解もあります。


DSM-Ⅲが「神経症」を捨て去った2つの理由


心理療法の重要性を主張する見解があるにもかかわらず、1980年に発表されたDSM-Ⅲで「神経症」は排除されていまいました。

DSM-Ⅲ(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:「精神障害の診断統計マニュアル」第三版)は、アメリカ精神医学会が作成した指標です。この基準は、診断の信頼性を高めることを第一に作成されました。

その結果、「神経症性うつ病」や「抑うつ神経症」は「気分変調症」という新しい概念に置き換えられることになりました。心理的サポートが必要という意見もあるのに。

また、科学的根拠に基づいたデータを得るために動物実験が行われます。しかし、ラットやマウスの苦悩や葛藤を測定することはできません。出来るのは、動物の行動の観察だけ。それゆえ、「動き」が重視されるようになったのです。

「うつ」と心の苦悩がまったく無関係と言うことはできません。それなのに、なぜ原因による分類が捨て去られてしまったのか?

それには2つの理由があります。
  • 「症状を抑えてればいいんでしょ?だったら患者の話そんな必死に聞かなくてよくない?」
  • 「気分の落ち込みや心身の不調を治すのに、心の苦悩を明確にする必要なくない?」
と、こんな表現をしたら語弊があるかもしれませんが、このような対処をせざるを得ない現実もあるようです。


『薬でうつは治るのか?』


「薬さえ飲めばうつ病は治る」という認識は100%正解ではありません。

もしあなたが「長い間、薬を飲んでいるのに症状がなかなか良くならない」と感じているのならば、「抗うつ薬が有効な内因性うつ病なのか?」一度考えてみる必要があるかもしれません。

片田氏は「気分変調症」とまとめられた神経症について、こんな問いかけをしています。
心の中の無意識の葛藤が解決されない限り、<うつ>はなかなかよくならないのではないだろうか。
(『薬でうつは治るのか?』より)
これはどんな病気にも言えることですが、科学も万能ではありませんし、薬の力ですべてが解決できるわけではありません。

このあたりについては、まだまだ不勉強な部分が多いのですが、まずは、うつ病回復のために自分の内面と向き合った方が良いケースもある、ということを心に留めておきたいと思います。



<本日の一冊>
片田珠美 (2006) 『薬でうつは治るのか?』 洋泉社

・・・日本だけでなく、米国、欧州のさまざまな研究・幅広い文献、現代に至るまでの精神医療の変遷など、かなり読み応えのある内容です。