うつ病患者のための復職プログラムを取り入れている病院を紹介する記事がありました。
うつ病患者の9割が復職、効果抜群の治療法
福岡県大牟田市の不知火病院。地方都市にある民間の中規模病院だが、1989年に日本初のうつ病専門治療施設「ストレスケアセンター」を開設して以来、先進的な医療機関として注目を集めてきた。
2003年からは復職支援を本格始動させ、10年経った現在は入院患者向け1種、外来患者向け2種のプログラムを開いている。各プログラム導入者の復職率は、直近データで86~100%というハイスコアだ。PRESIDENT Online 2013年7月22日(月)配信
http://president.jp/articles/-/10061
この病院で、治療と復職支援を受けたAさん(女性・30代・窓口業務)は、「ものの捉え方や考え方の歪みが取れて楽になった」「眠っていた就労意欲が呼び覚まされた」と語っています。Aさんは約半年で職場復帰できたそうです。
カウンセリング主体の治療
不知火病院の治療スタンスは、「薬をなるべく使わない」。徳永雄一郎院長はこう説明しています。
このように、不知火病院では根本的な治療として、認知行動療法をはじめとしたカウンセリングに力点を置いているのだそうです。さらに、「カウンセリングナース」という独自の手法も効果をあげているとのこと。薬物療法も必要ですが、それだけでうつ病が治るかといったら、簡単にはいきません。薬で症状が治まったとしても、いずれ再発してしまう可能性が非常に高いのです。(中略) うつ病を患った原因は何なのか。本人の性格要因なのか、職場の要因か、家庭の要因か。そこを丁寧に調べながら、1人ひとりに合った治療をしていくのです
「カウンセリングナース」、初めて聞きました。カウンセリング技術を習得した看護師さんが、患者の不安に身体を通して関わるのだそうです。ナースにしかできない部分をフォローしているんですね。
記事ではこのように表現されています。
どんなタイプのうつ病患者も、自分でコントロールできない攻撃性を抱えている。カウンセリングナースは、その攻撃に対して“サンドバッグ”に徹することで信頼を得る。
自分の考え方を変えていくプロセス
入院のメリットについても語られています。
環境が与える影響は大きいんですね。特に、自宅療養が難しい場合に入院が効くのだそうです。例えば、入院の効果は確実にあります。通院しながら長いこと自宅療養していたのだがよくならない、といった患者さんが、入院しただけでどんどん治っていく。難しい治療をしなくても、自然と治る場合があります
休職して療養に専念しても、昼間に自宅で1人という毎日が続けば、孤立感が深まりマイナス思考に拍車がかかる。散歩も近所への気兼ねがあってしにくいし、子供から「お父さんどうして仕事に行かないの?」と聞かれたら辛い。入院すればそれらのストレスから逃れられる。
多岐にわたる復職プログラム
この記事で紹介されているトライワーク・プログラムの内容は4つ。
- 就労ミーティング(月曜午前)
- オフィスワーク(月曜午後)
- 各種の作業療法(火曜午前~金曜午前)
- SST(Social Skills Training):社会生活技能訓練(金曜午後)
プログラムの中核である「就労ミーティング」について、作業療法士の龍亨氏はこう説明しています。
前の1週間で自分が立てた目標をどれぐらい達成できたのか、この時間にチェック表を使って振り返ります。そして、10人前後の参加者グループ内で、ご本人に振り返りを発表してもらいます。発表内容には他の参加者が質問やコメントをし、発表者が困っていることをみなさんで考えます。そうすることで、参加者全員が仲間になり、同じ悩みを共有する体験が得られるのです
また、SST(社会生活技能訓練)について、臨床心理士の宮成祐輔氏の説明もあります。
こうした集団精神療法による心理的サポートを受けることで、患者は安心感と自信を得られるのですね。自分が抱えている困難をロールプレーなどを通して解決していく手法のことですが、もっと多様なことをやります。例えば、認知再構成法と呼ばれていて、職場でイライラしたときにどんな気持ちだったのか、お話しいただきます。それで他の参加者から『こんな考え方もできるのでは?』と助言をもらうなどして、自分の考え方を変えていきます
トライワーク・プログラムを支えるスタッフは、看護師2人、臨床心理士1人、作業療法士2人、精神保健福祉士2人の計7人。とても心強いです。
患者本位の医療
驚きだったのは、カウンセリングナースが無料サービスだということです。保険適用外になるのだそう。
患者の気持ちを第一に扱ってくれる病院はなかなかありません。病院経営のためには診療報酬点数を稼ぐ必要があるからです。心理的なケアは点数にならないんですね。
こんな精神科医のぼやきを聞いたこともあります。その先生は、調子が悪いと受診した患者さんの話を聞き、薬を出さずに返すこともあるそうなんですね。しかし、そうすると病院の会計課から「点数が0じゃ困ります」と注意されてしまうのだそうです。
そのような事情を知ると、「患者のためだけに」と言うことは難しいのでしょうが、やはり経営よりも患者の気持ちを優先して治療していただきたいものです。もちろん、そういう先生もいらっしゃるとは思うんですけどね。
最後に、経営者である徳永院長の言葉を。
「たしかに儲かりません。でも、自殺をしようという人が、朝日が昇るのを見て、『ああ、自分も生物の一員なんだ。呼吸しているだけでもいいんだ』と発見したりするんです。生きる意味やエネルギーを患者さんから貰える仕事に私は就いている。だから、医療に妥協はできませんよ。病院を潰すわけにもいきませんけどね(笑)」
うつ病で悩むすべての人が、このような理念のもとで働く医療従事者、医療機関の治療を受けられるのが理想ですね。
<病院HP>
医療法人 新光会 不知火病院 ホームページ
<本日の一冊>
PRESIDENT 2013年 8/12号 プレジデント社
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